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赤色の車体じゃない方の「こまち」
赤色の車体じゃない方の「こまち」
先日、KATOから秋田新幹線「こまち」の再生産が発表されました。
それにしても「こまち」という名前。一般的な新幹線や特急などと比べると個性的な感じもしませんか?
実は「こまち」の由来は、小野小町(おの の こまち)。彼女が生まれたのが現在の秋田県湯沢市小野と言い伝えられていることから、秋田にゆかりのある人物ということもあり、「こまち」が採用されました。
さて「こまち」と聞いて「あの赤色の車体のタイプ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし今回、再生産が決まった車両はこちら。
「赤色の車体じゃない方」の「こまち」です。
赤色じゃないということは…実はこの「E3系こまち」は、1997年(平成9年)に開業した秋田新幹線の初代車両として導入された、車両。いわば「秋田新幹線の未来を背負ってスタートを切った功労者」とも呼べる車両なんです。
とはいえ2013年より現在活躍中の「赤色の車体」の「E6系こまち(写真左)」が秋田新幹線に導入されたことから、翌年の2014年3月のダイヤ改正により「E3系こまち(写真右)」は定期運用が終了。 「E3系こまち」の記憶も薄れている方もいらっしゃるかもしれませんし「秋田新幹線」は、秋田県外の方にはあまり馴染みがないかもしれませんね。
そこで今回は「E3系こまち」について詳しくご紹介したいと思います。
1997年に開業した秋田新幹線に導入された「E3系こまち」
「E3系こまち」が運用されていた「秋田新幹線」は東京駅と秋田駅の間を結ぶため、東京駅と盛岡駅の区間は、東北新幹線の区間の一部を走行、そして岩手県の盛岡駅と秋田県の大曲駅の「田沢湖線」と秋田県の大曲駅から秋田駅までの「奥羽本線」という元々あった在来線の線路幅を新幹線と同じ1,435mmに改修し、1997年に開業しました。
「へぇー、在来線も線路幅を新幹線と同じにしたら新幹線車両、走行できるんだ」
と思いますよね?確かに走行はできるんです。
できるのですが、ひとつ問題がありまして…在来線の駅のホームに入場できないんです。
「え?それは、走行できないのと同じじゃないですか!」
そうなんです。実は、既存の新幹線の車両は一般的な在来線の車両よりも大きく、在来線では物理的に運行ができないというのがその理由。
一番分かりやすいところで、新幹線と在来線の座席数を例にして各車両のサイズを考えてみましょう。
通常の在来線の車両は一般的なタイプでは進行方向に向かって並ぶ座席では、通路を挟む2席と2席の横並びですよね。しかし新幹線の車内の座席の数は通路を挟む2席と3席の横並びで在来線よりも1席多いですから、新幹線の車両の幅が在来線よりも明らかに大きいことが座席の数からも分かりますよね。
つまり、秋田新幹線を走行する車両は、在来線に合わせた車両の幅で新しく作らなくてはならないという状況になった訳です。
このように、線路は新幹線サイズに、車体は在来線サイズに合わせた車両のことを「新在直通用」と呼んでいるのですが、実は既に山形新幹線の「つばさ」でこの方式が採用されていたこともあり、それに続く形で誕生したのがこの「E3系こまち」なのです。
「秋田新幹線」だからこその設備とデザイン
さて、「E3系こまち」の大きな特徴は「新在直通用」という車両で一般的な新幹線に比べて車体幅が小さいということが分かりました。
すると気になるところが出てきました。
「在来線のサイズに車体幅を合わせて小さくすると、逆に車体幅の大きな新幹線の駅ホームでは、車体とホームの間が、かなり空いてしまうのでは?」
確かに、小さいお子さんなどは歩幅が小さいですから、これは乗り降りの際に心配ですよね?
そこで「E3系こまち」は乗降口のドア部分に延長ステップを装備することで、新幹線の各駅での停車する場合のみ自動的にステップがドアの下から上がるようにして、車体とホームの間に生じる隙間をカバー。どの停車駅でも安全に乗り降りできるような仕様にしたんですね。
さらに雪国を走行する新幹線ということで、冬の季節は雪による車両への影響を最小限にする対策が重要になってきますが「E3系こまち」は車体の下部分をカバーで覆うデザインを採用。雪の侵入を防ぐ構造としたことで、雪国ならではの問題をクリアにしました。
「確かに、このような降雪の多いエリアを走行するのですから、雪の対策は重要ですよね」
それにしても「E3系こまち」は、カラーも特徴的ですよね。側面を流れるように入ったピンクのライン。
これまでの新幹線がブルーなど寒色系のカラーが採用されることが多かったので、このスリムで際立つピンクカラーのラインはとても印象に残ります。
そんな「E3系こまち」をデザインしたのは、栄久庵(えくあん)憲司(けんじ)氏。
変わったお名前の方ですが、日本の工業デザインでは草分け的な存在で、その中でも彼の代表作がキッコーマンの卓上醤油瓶。他にもコンビニのミニストップのロゴデザインなど、様々なデザインを手掛けられているのですが、実は鉄道デザインも多く、以前にご紹介した「成田エクスプレス」のE253系やE259系も彼のデザインのひとつ。
そんな鉄道デザインの実績もあった栄久庵氏に舞い込んだのが秋田新幹線のデザイン。
秋田の田園風景や雪景色との調和を意識しながらも、在来線も走行するということで沿線の地元住民とも意見交換を行いながら、最終的に辿り着いたのが、この白い車体にピンクのライン。
こうして地元住民と意見を交わして生まれた新幹線ということもあり、定期運行の終了が発表された際に、地元住民からは引退を惜しむ声や、保存を求める声が多く出たとか。
ちなみに「E3系こまち」の車両の側面にある洗練されたひらがなで表記された「こまち」のロゴも栄久庵氏によって書かれたもの。
デザイナー直筆の文字をのせた車両ということもあり、栄久庵氏自身にとっても「E3系こまち」は愛着のある作品の一つだったのではないでしょうか。
「赤色のこまち」の登場で2014年に定期運用終了となった「E3系こまち」
さて、1997年の開業以来、秋田と東京とをつなぐのに、大きな役割を果たしてきた「E3系こまち」ですが、2013年より「赤色の車体」である「E6系こまち」が秋田新幹線に導入され、翌年には秋田新幹線の車両全てがE6系に置き換えられることに。
2014年3月のダイヤ改正により「E3系こまち」は定期運用が終了。1990年代に製造された「E3系こまち」は廃車となりましたが、2000年代に製造された車両の一部は「こまち」のロゴを撤去し、東北新幹線「やまびこ」「なすの」として運用される「再就職」を遂げて、2020年10月まで活躍していました。
「E3系こまち」が運行を終えて随分経つのですが、こうしてこれまでの経緯をたどると、「秋田に新幹線を走らせる」という期待を背負って活躍した「E3系こまち」の存在は大きいですよね。
「E3系こまち」のNゲージモデルの再生産も、久しぶりということですので、ぜひこの機会にNゲージモデルを手に入れて秋田新幹線の礎を築いた「E3系こまち」の姿をご自宅で楽しまれるのはいかがでしょうか?
今回は、KATOから再生産が発表されたE3系秋田新幹線「こまち」についてご紹介しました。
1997年に開業した秋田新幹線の初代車両として導入された「E3系秋田新幹線こまち」。2014年のダイヤ改正を以って秋田新幹線の運用はE6系に置き換えられ、秋田新幹線からの撤退後は「こまち」ロゴを撤去し、東北新幹線「やまびこ」「なすの」として運用されました。
E5系「はやぶさ」とE6系「こまち」の2列車を同時に複線線路で楽しめるワンランク上のスターターセット。2列車のすれ違い運転や、実車で見られる併結運転をお楽しみいただけます。
2013年3月に運行を開始した東京と秋田を結ぶ最新の新幹線、E6系新幹線「こまち」。当初「スーパーこまち」と名乗っていましたが、2014年3月のダイヤ改正で「こまち」系統の列車が全てE6系で運転されるようになり列車名は「こまち」に統一されました。